基本修行科目の1番目は、四正断(四正勤)である。四正断とも、四正勤とも呼ばれる。
総合修行科目のうち、「精進」と訳されたものが、四正断のことである。
五根五力の「精進根・精進力」、七覚支の「精進覚支」、八正道の「正精進」が、四正断(四正勤)のことを指す。
四正断(四正勤)は次のものであり、日々の日常で努力すべき実践的な行動である。
1.断断
いまだ生じていない悪を生じさせないように努力する。
新しい悪業が生じないように、意志を起し、努力し、精励し、心をはげまして立ち向かう。
新たな悪業はなさないと決意して、それを熱心に注意深く実行していく。
2.律儀断
すでに生じた悪を断滅するように努力する。
すでにある悪業を断滅するように、意志を起し、努力し、精励し、心をはげまして立ち向かう。
すでに生じている悪業を無くそうと決意して、それを熱心に注意深く実行して行く。
3.随護断
いまだ生じていない善を生じさせるように努力する。
新しい善業が生じるように、意志を起し、努力し、精励し、心をはげまして立ち向かう。
新たな善業をなそうと決意して、それを熱心に注意深く実行して行く。
4.修断
すでに生じた善を増長させるように努力する。
すでにある善業を安定させ、持続させるように、意志を起し、努力し、精励し、心をはげまして立ち向かう。
すでに生じている善業を定着させようと決意して、それを熱心に注意深く実行して行く。
ここでいう「精進」とは、通常の「精進する」(努力する)というような意味だけではなく、四正断を意識して行動するという意味になる。四正断は、具体的な実践的行動であり、やみくもに仏道に精進する(努力する、頑張る)という抽象的な意味ではない。
四正断の内容をみると、呼吸法でも瞑想法でもなく、修行というより倫理道徳のような教えのようにも思われるであろう。いかにも修行らしく思えるような修行ではない四正断の内容をみて、これは大した内容ではないと、あなどる人もいるのではないだろうか。ただの教えか、というわけである。
しかしよく考えてみれば、本当に分りきったことなのであろうか。また分りきったことと思っても、ここにある内容が本当に実践できる人がどれだけいるであろうか。
四正断は、一人だけでできるような修行ではない。日常生活の人とのかかわりの中で、はじめて実践することが可能である。四正断の実践を意識して行おうとすると、実際にはどれだけ大変かがよく分るはずである。
確かに四正断だけでは、ニルヴァーナまでは至れないかもしれない。しかし、四正断を実行することで、天上界へ生まれる因を作ることができる。四正断を実行することのできる人は、少なくとも天の世界に生まれ変わることができる。四正断により、善を増大させ修行環境を調え、修行がしやすくなっていく。
四正断では、善業を増大させ、悪業を減少させることを目指している。ここで何が善であり、何が悪であるかということがある。解脱という視点から考えると、解脱を助けるものが善であり、解脱を妨げるものが悪である。心を平安にし、執着(煩悩、結)を減少させる事柄が善であり、心の平安を乱し、執着(煩悩、結)を増大させる事柄が悪といえる。これをさらに詳細に分析すると、日常生活の規定である戒となっていくのである。
四正断の実践を滞りなく行えるように、という考えから「戒」が生まれたのである。戒律というと、人を縛り付けるもののように捉えがちであるが、修行者が解脱へ至るために、日々の日常生活が調えられるように考えられたものでもある。出家修行者、在家修行者のどちらにとっても、日常生活、それ自体を調えて四正断に沿うように、意識的に生活するために戒律が生まれたのである。
日々の日常生活で、常に戒を意識していれば、必然的に四正断の実践に結びつくからである。
常に日常生活で意識していなければ、四正断は実行できるものではない。時たま、気が向いたときに思い出すという程度では、四正断の実践とはとても言うことはできない。思い出す程度では修行ではなく、単なる普通人の心構えという以上のものではない。
別の修行科目である四念処に熟達すれば、日常生活の中で、自分の行う行動、心の中に沸き起こる気持ちや考えに、常に注意を払うことができるようになり、より深い意味で四正断を実行することが可能となる。自分の行動のすべてを意識的に行うことができるようになるのである。
また逆に、常に四正断を意識していれば、それは四念処を深めることにもつながっていく。個別の基本修行科目にも、相互に関連する作用が存在するのである。
四正断の実行というからには、日常生活で、常にこの内容を意識していることが求められるのである。四正断(戒を含む)を実践していない仏道実践者は、いないはずである。
ちなみに四正断(四正勤)とは、4つのするべきでないこと、するべきこと(断ずべきこと、勤めるべきこと)という意味からである。
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